ACPE2024 in Tokyo, Japan 学会報告

2024年 10月 12日(土)~ 14日(月)東京都の東京大学本郷キャンパスで開催された第16回国際薬剤疫学会アジア会議及び第29回日本薬剤疫学会学術総会(ACPE2024)の参加報告です。今回は国内学会とアジア国際学会の合同開催になります。当分野からは教授の山口、他教員小山田、邱、博士課程の田代の4名が参加しました。
基調講演には三名の先生方が登壇されました。Miguel Hernan 先生は、ハーバード大学 CAUSALab のディレクターを務めていらっしゃる、因果推論の方法論研究の第一人者です。講演ではランダム化比較試験とそれを模倣する観察研究において推定される因果効果の違いに関する考察についてお話されました。久保田潔先生は東京大学薬剤疫学講座元教授であり、過去には日本薬剤疫学会(JSPE)および国際薬剤疫学会(ISPE)で会長を務められていました。講演では、曝露が慢性的または連続する状況でのケース・クロスオーバー試験で特有のバイアスの検出と対策について話されました。Yea-Huei Yang-Kao 先生は台湾の国立成功大学(NCKU)の名誉教授で、行政院衛生福利部および教育部の各種諮問委員会の専門家委員を務めるなど、規制関連業務に積極的に関与されました。講演では、台湾およびアジア太平洋地域における薬剤疫学研究プログラムの構築と推進への先生の功績が紹介されました。
プログラム本体では、"Use of Real-world data for regulatory decision making: the value of collaborations"や"Leveraging regulatory pharmacoepidemiology for informed decision making in Asia"などのシンポジウムにおいて、主にアジアにおけるリアルワールドデータベース(RWD)の整備、リアルワールドエビデンス(RWE)の創出、政策決定や規制に関するトピックが多く講演されておりました。アジア各国でRWD/RWE活用のための整備が進められており、今後は一層アジア圏での研究を目にするようになると思われます。今回の公演ではアジア諸国のデータベース研究を網羅的に紹介されているものもあり、各国のデータベース研究を理解する上で有用な情報源となりました。また" Deprescription Dynamics: Insights and Strategies for Optimizing Medication Management in Diverse Healthcare Landscapes"といった、Deprescription(脱処方)に着目したセッションも設定されておりました。ポリファーマシー(多重処方)は主に医療従事者の視点で問題提起されていたトピックですが、社会的、経済的な影響もあり非常に解決が難しい問題です。患者を含めた治療に関わるすべての立場にとって脱処方への壁があることが強調されていたのが印象的でした。疫学的視点がこの問題の解決の一助になることを期待したいです。
最後に Miguel Hernan 先生の著書『Causal Inference: What If』は当研究室勉強会で活用させていただいており、直接ではありませんが大変お世話になっております。今回は貴重な日本での講演に参加することができ大変嬉しく思います。ありがとうございました。